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伝統彫金の世界

2013年6月6日

伝統彫金の世界

 銀座の繁華街からほど近くにある、彫金工房「METAL HEARTS(メタルハーツ)」を訪ねました。桂盛仁さんが指導する彫金教室が開かれるその日。静謐な工房には、コツ、コツ、コツと鏨(たがね)を地金に打ち込む音がリズミカルに響き渡っています。
 彫金とは金・銀・銅などの金属を、彫ったり打ち出したりして装飾する金工技法のひとつ。桂さんは伝統的な彫金技術を受け継ぎながら、独自の感性で優美な彫金金具を創り出す彫金家として、2008年の秋に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。
 「彫金という分野や職業にもっと光が当たるように、私の功績が役に立てばと願っています。近頃では彫金=指環を思い浮かべる若い女性が多いですが、伝統的な技法を基に、今でもカフスや髪飾り、器物などが作られています。もう一度彫金が見直されるといいですね」と桂さん。室町時代に発展した武具などの装飾技術は、明治初期に廃刀令が出されると着物の装身具や煙草入れなどに活かされるようになり、彫金は人々の生活の中で輝きを放ってきました。その後時代の趨勢にのって洋装化が進むと、かんざしや帯留など女性の装身具は西洋式のジュエリーへと変遷をたどります。今では、お茶席や和装装身具など特別な席にみられる彫金金具ですが、本来はもう少し身近なファッション小物だったのかもしれません。
 さて桂さんの作品をご覧いただきましょう。あふれる気品と繊細なぬくもりが伝わってきて、その美しさに心を動かされるのではないでしょうか。「技術は常に上を目指さなければ落ちてしまう。頂点とったなんて思ったらそれで終わり。長い歴史の中で技法はすでに出尽くしているから、日本古来の技術に現代の感性を織りまぜて、どう新しい表現を生み出していくか。それが難しい」と謙虚な面持ちで笑みをこぼしながら語られました。さらなる新鮮な驚きを探求して…。桂さんの挑戦は続きます。

人間国宝 桂 盛仁

Katsura morihito
1944年生まれ・東京都出身

●略歴
重要無形文化財保持者「彫金」認定 2008年
伊勢神宮遷宮御神宝制作 1992年、2011年
文化庁企画工芸技術記録映画
「彫金-桂盛仁のわざ」製作(日経映像) 2010年
「天道虫小金具制作工程見本」文化庁買上 2011年
「殿様蛙 帯留金具」文化庁買上 2012年
公益社団法人日本工芸会 正会員、参与
桂彫金塾主宰
神戸芸術工科大学 客員教授
東北芸術工科大学 非常勤講師
金沢美術工芸大学 非常勤講師
ヒコ・みづのジュエリーカレッジ 非常勤講師
人間国宝 桂 盛仁
人間国宝 桂 盛仁

作品

凪銅壺
凪銅壺
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群遊帯留金具
群遊帯留金具
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凪銅壺
凪銅壺
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縞栗鼠 香爐
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縞栗鼠 香爐
彫金家「桂盛仁」ルーツは刀にあり
現代のような彫金の技術が確立したのは室町時代。武士が使う刀の鍔(つば)や目貫(めぬき)などに彫金 の美しく精緻な細工がほどこされ、その技術や素材はひとつの頂点を極めます。桂さんのルーツもこの時代。足利尊氏側近のお抱え彫金師を祖とする柳川派。その技を伝承する弟子筋の12代目で、師は父でありました。出来の気に入らないところがあれば作品を取り上げて黙って直すだけ、実直で無口な師匠だったといいます。「手をとっては教えてくれなかった。直された部分はどう手を加えられたのか、夜中に工房にこもって考えたりしてね。仕事場で父の手元をじーっと見て覚えるしかなかった」。 そう話す桂さんですが、指導する彫金教室では苦労しながら地金を打つ生徒さんを見守るように、根気強く向き合います。「技見て盗めという昔の教え方では、今は時間が足りない。彫金は技法書や写真を真似して覚えられるものじゃない。手取り足取り明確に伝え、教えるんです。覚えれば自然と体が動くようになる」。創作に研鑽を積まれている一方、全国各地から指導の依頼も多く、現在は学生や若い彫金家の育成に、桂さんの情熱は熱く注がれています。
多彩な表現技法
作品の完成までには、たくさんの工程をふむ必要があって、使う道具もいろいろ。固い金属を美しい姿に変えるまでにはたいへんな労力と時間がかかります。 ここでは、桂さん作の技法見本をもとに、伝統に基づく技のほんの一部をご覧いただきます。
鏨を操る「蹴り彫り」
刃先が三角の鏨を用い、刃の角を使って刻み込む。蹴り進むように表面を滑らせ叩いていくと三角の跡が連続した線に繋がる。強弱線の組み合わせや、リズムによる表現が見所。
鏨を操る「蹴り彫り」
超絶技巧「布目象嵌」
素地の表面を縦横斜めと細かく布目のように目を刻み、金や銀などの箔を打ちこみ嵌める技法。布目が細かい程、難しい。嵌め込む金属よりも素地が硬いことが絶対条件となる。
超絶技巧「布目象嵌」
煮色着色して「色上げ」
特殊な薬品につけ込むと化学反応をおこして地金本来の色が出ます。模様部分には異なる金属が嵌めこまれています。表面に描いたり塗ったのではありません。
煮色着色して「色上げ」
〈室町?鎖国時代に生まれた日本独自の合金〉
日本では西洋のように宝石がとれないのでこのように金属で表現する技術が発展した。
左側より、紫金、赤銅(五分差)、赤銅(三分差)、白四分一、上四分一、並四分一(内三分)、並四分一(外三分)、黒四分一、黒味銅 葡萄合、銅、和黄銅
〈室町?鎖国時代に生まれた日本独自の合金〉
伝統的技法を学べる彫金塾
銀座にある工房では、月に数回桂さんが指導にあたる「桂彫金塾」が開かれています。 自分の感性と向き合い、匠から技や精神を教えてもらえる貴重な時間。ジュエリー作家から初心者まで多彩な人が制作に没頭しています。 他2名の講師による彫金教室や1日体験などもあり、プレゼントとして制作に励む人も。 世界に誇る「彫金」の技を、ここでは気軽に学ぶことができます。
《教室案内》
桂 彫金塾
講師/桂 盛仁(重要無形文化財保持者、人間国宝)
第1・3火曜日、第1・3水曜日、第1土曜日、第3日曜日
やさしい伝統彫金教室(講師/大野 允裕)
伝統彫金教室(講師/ 田村 尚子)もあります。
木目金リングを作る1日体験コース
所要時間/3時間
費用/7,350円(材料費込)
伝統的技法を学べる彫金塾 伝統的技法を学べる彫金塾

※受講料や内容など詳細はお電話にてお問合せ下さい。

取材協力・撮影
METAL HEARTS(メタルハーツ)
中央区銀座1-18-6井門銀座1丁目ビルB1F
TEL.03-3563-3038
http://www.metalhearts.net/

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